2016年にアニメ映画、2018年にドラマとなった「この世界の片隅に」。
2018年にドラマになった「夕凪の街 桜の国」(8月6日にNHKで放送)。
共通するのは、「原作が『こうの史代』という作家の漫画のベストセラー」で「どちらも広島を舞台にしていること」です。
また「背景として原爆があること」と、「普通の生活を送る一般の人がそれに巻き込まれる」ことも共通しています。
外の目ではなく、自分と同じように普通の生活を送っていた人が、いかに非情な状況に巻き込まれたのか。
そしてそれをどのように乗り越えたのか、乗り越えられなかったのか。
周りの人にどのような想いを残したのか。
その先にどんな生きる頼りがあったのか。
その一面を知ることができます。
この世界の片隅に
■あらすじ:
平成の名作・ロングセラー「夕凪の街 桜の国」の第2弾ともいうべき本作。戦中の広島県の軍都、呉を舞台にした家族ドラマ。主人公、すずは広島市から呉へ嫁ぎ、新しい家族、新しい街、新しい世界に戸惑う。しかし、一日一日を確かに健気に生きていく…。
前半は主人公すずが、広島の海辺の町で育ち、呉の家に嫁いでその家族になっていきます。
顔を見たことのない相手とお見合いしたり、呉の街には水兵が闊歩したりと当時の雰囲気がにじみ出ます。
少しぬけているすずは、義理の姉から嫌味を言われつつもそうと受け取らず、結婚相手周作とも通じ合うようになり、おだやかに結婚先の家の一員になっていきます。
ひょっとしたことから知り合った遊郭の住人リンとも。
後半では戦況が厳しくなる中、すずがあるできごとからさらに厳しく当たられるようになった義姉と、ついに心を通わすことができた瞬間に・・・
最後に
「この世界の片隅に、うちを見つけてくれてありがとう」
という言葉がすずと大切な人をつなぎます。
■感想
戦争とか原爆を教科書や原爆資料館でしか知らない自分にとって、本当の意味で始めてリアルに感じさせてくれたのがこの漫画でした。
(原爆資料館は子供の頃に行ってトラウマになりましたが)
それはたんねんに描かれた登場人物の生活と心の動きがあってのこと。
最後に新しい光のきらめきを見せてお話は終わります。
笑ったり衝撃を受けたりしながら、このお話は、じゃあ自分はなんで今生きているのかを静かに問いかけて来ます。
夕凪の街 桜の国
■あらすじ:
昭和30年、灼熱の閃光が放たれた時から10年。ヒロシマを舞台に、一人の女性の小さな魂が大きく揺れる。最もか弱き者たちにとって、戦争とは何だったのか……、原爆とは何だったのか……。漫画アクション掲載時に大反響を呼んだ気鋭、こうの史代が描く渾身の問題作。
ストーリーは、昭和20年前後の広島と、現代の東京の話の2部構成。
第1部では原爆投下から10年後、広島で暮らす平野皆実が同僚の男性と心を通わす話。しかし原爆の影は10年後になっても姿を現し・・・
第2部は現代の東京。
第1部の主人公の平野皆実の弟の娘、石川七波が主人公となります。
不審な行動をとる父が、実は姉(皆実)の生前の話を聞くために広島を訪れていたことを知った七波は、同時に自分の弟が、当時につながる影響を受けていることを知り・・・
「母からいつか聞いたのかもしれない。けれどこんな風景をわたしは知っていた。生まれる前、そう あの時わたしはふたりを見ていた。そして確かにこのふたりを選んで生まれてこようと決めたのだ」
こちらも最後には新しい希望を感じさせてお話は終わります。
■感想
100ページという短いストーリーながら、つながりあう過去と現在の2つのストーリーをまとめ、未来につなげています。
「この世界の片隅に」よりずっと短い時間で読めます。
ただ内容は原爆「後」のストーリーなので、その直後のできごとも含めヘビーな描写も含みます。
それでも私がこの話が好きなのは単純で「人が人を好きになる」ということに特に焦点を当てているから。
同僚の男性が主人公に、主人公の母が近所の孤児に、主人公の弟がその孤児に。
現代に移ってからは、主人公がその祖母(第一部の主人公の母)やその友達に、友達が主人公の弟に。
いろいろな形の好意が描かれます。
そしてなにより、第一部・第二部をつなぐ、第一部主人公の弟であり第二部主人公の父が、二人の主人公に向ける想い。
明確には描かれていないその想いが、紙面にあふれているのが、読んでいて温かい気持ちになれる理由だと思います。
最後の場面が、もし続くとしたら、第三部になりそうな話になっていることも、きびしい描写を読んだあとでも、逆に前向きな気持ちになれる理由だと感じています。
これはぜひ手に取ってもらいたい、私が今まで読んだ漫画の中でいちばん心に残るストーリーです。
どちらもKindle本になっていてスマホでも読めるので、すきま時間があればどうぞ。